最低そして最高

やったー♪地獄から蜘蛛の糸を伝って地上に戻ってきた気分。あちらの仕事終了。

「あばよ」とひとこと言って去ろうと思っていた目論見は、最初から出鼻を挫かれ、ただの妄想で終わった。

私が、おはようございます。とドアを開けたら、いきなり自閉くんが顔をだして「Tさん、今日で辞めちゃうの?」と。。。なんでよ?普通、利用者に辞めることは知らされずに終了だったはずなのに。

「え?誰から聞いたの?」

「うん、〇〇さんから」

「あ、そうなんだ」

………………………………

少し沈黙があって。

「うん、そうなの。今日で最後なの」

「そっか。。。でもまたいつか会えるよね」

ちょっと、言葉に詰まるも、、、

「うん、そうだね。きっとまた会える」

いきなり、初っ端から、先制パンチを喰らった。

それから長い一日が始まった。

先週、水虫が発覚した利用者。自身で薬を塗布しているからなのか、2日前から薬が切れている模様。そして、先週、個人のバスマットを購入する予定の話も全く進んでおらず。当然ながら、血圧計の消毒の件に対しても明確な回答もなし。

もやもやした気分のまま、夕食の支度に入り、配膳を済ませたところで別な棟の世話人が来て、職員の所在を聞きにきたので、もう帰宅されましたと話したところから、小一時間、彼女の悩みを聞くこととなった。

某世話人が、一日おきでいい仕事をお構いなしにやってしまうので、利用者がそれを毎日されることと思ってしまい、その仕事をしない世話人に対する苦情となってしまうらしい。

先週私も似たような目に遭っているからよく分かる。私は、市販薬を塗布する行為はNGと心得ているのに、前日の世話人が、その人の勝手な判断で利用者に塗布してしまい、利用者にとってそれが既成事実となってしまっていた。そればかりか、別な利用者の水虫が悪化したのが私が薬を塗布するのを怠ったかのような噂まで流されていた。

しかし、仮に私が一度くらい薬の塗布を怠ったとしても、それで水虫が悪化する筈もなく、しかも週一勤務しかしない私に責任を押し付けられるのは甚だ無理な話だ。

そして残念ながら私は、薬の塗布を怠ったこともなく、業務日誌にも、くるぶしまで塗布したとはっきり記載までしていたのである。

気持ちとしては、その根も葉もない噂を流した奴を引っ叩いてやりたい気分だった。

とまあ、私もそれぐらい腹に据えかねる思いをしていたのだが、某世話人はもっと酷い目に遭っていたようだ。

元々彼女たちは仲間だったのに、突然掌返しに遭って、利用者に対する対応のクレームの責任を全て負わされ、8/31に突然、雇い止めの通告を受けたのだという。

まあその彼女も、100%シロとは言えないがしかし、100%ブラックでもない。いずれにせよ目先の利害関係で簡単に人を裏切るような輩を相手にするのは時間の無駄。

良かったじゃない?私もあなたも今月でここを抜け出せるんだからって。


でも、彼女はもう少し話をしたそうだったのでじゃあまたあとでということで、、、リビングに戻ったら、今度は、電動車椅子のタイヤに空気入れてとお願いされた。本人自分でやらないので、自転車の空気入れと同じですからーなんて言っていたけれど、そこまで簡単じゃないし。

30分くらい試行錯誤の末、ようやくなんとか、、、というところまでこぎつけ、プラグをキツく締めたところで、ちょっと右側の空気が足りないような、、、は?でしょ。専用の工具もなく、初めて電動車椅子のタイヤの空気入れをさせられ、、、もし、力を入れすぎて、どこかを壊してしまっても責任持てませんと何度言っても納得してくれない。

仕方なく、またナットを緩めて空気を足す。しかし、やはり左右のナットの具合が、最初から微妙に違っていたので、もうこれ以上は私の手に負える問題ではないのでいいでしょうか?と。明日管理者か日勤の方に確認して貰うということでお願いしますと。

私は、グループホームの夜勤世話人で、家政婦ではない。便利屋でもなんでもない。頼めばなんでも対応してもらえると思ったら大間違いだ。

だからその方には言った。今日で最後なので言わせて貰いますが、健康な爪を切る行為は、ギリギリ医療行為ではありませんが、水虫等の病気のある爪を切る行為はNGだとご存知ですか?と。そしたら、以前彼が、管理者に聞いたら、全然OKだと言われたという。

しかしそれは、管理者の認識不足であって、保育園等でも、爪を切る行為はNGであることからしても、まして水虫の爪を切るなんて本当にそれなりの対策も無しにやってはならないことなのである。

結局、こういった勉強不足な管理者の下で働く現場に全てしわ寄せがいってしまうし、利用者も間違った常識を植え付けられてしまうので、どちらも不幸になってしまうのだ。

電動車椅子の彼にしても、どんどん、お世話が増えていっている。水虫の薬の塗布、肩こりの湿布、通所時の補装具の装着、洗濯物を乾燥機に入れる作業。本人、これから就活をして、一人暮らしを目指している立場の人なので、正直現時点でも本当に自立出来るのかと言えば疑問が残る。

というか、私の認識不足かもしれないが、このような方々の思う自立と、私の思う自立とは別物なのかもしれない。


そして一夜明けて朝食。相変わらずいつものメンバーで、某利用者の悪口三昧。そして、今日は、そのメンバーの中で生活保護をうけてない人に対して、生活保護を受けてるメンバーが、君なら生活保護余裕で貰えるでしょ。なんて不届きなことを指南してる始末。

我が家は、自営業なので国民年金しか貰えず、生活保護費よりも給付額が低い。それなのにせっせと毎月支払って、高い国民健康保険まで支払って。はっきりいってハラワタが煮えくりかえる。

だから余計に、こんな人たちに家政婦扱いされるのが我慢ならないのだ。


そして、とうとう、最後の申し送りの時間がやってきた。通常の送りが終わったあとに、ちょっとよろしいでしょうか?と言って話始めた。

今は、いろいろな対応が、世話人の判断に任されているが、そうなると、利用者の要求はどんどんエスカレートするだけで、本来の自立支援施設としての役割から逸脱するだけ。もう少し管理者が明確に指針を示してほしい旨を述べた。

利用者の要求を闇雲に肯定するのではなく、本当にそれが利用者の為になるのか?それを考えて支援の現場に反映させることが大切なのではないか。

どんな仕事でも、これでいいと思えば、それ以上の進歩はなくなる。たとえ、介護や障がい者の現場であっても、利用者やそこに携わる人たちをモノのように扱ってはいけない筈だ。

皆が陰口を叩きあうのではなく、正々堂々と意見を出し合って、最大公約数的な枠組みを作っていけたら、結果的にサービス業として満足度の高い運用に近づいていくのではないかと思う。

とにかく、現状、申し送りも穴だらけで、いつ重大な事故が起きてもおかしくない状況だという危機感が無さすぎる。

だから私もここを辞めようと決意したのだ。

とまあ、大体こんな主旨の話をして、その場を去った。(実際はもっと具体的な話をしているけれど)

一年間お世話になりましたと。


少し時間を巻き戻す。

自閉くん、いつもの時間に、通所先に向かって出発する時に、私にひとこと言ってくれた。

「行ってきます。Tさん、またいつか会おうね」

「そだね。U君も、朝うがいをする時に、もう少し小さな音になるようにしたら、もっとみんなと仲良くなれるよ」

「うん。分かった。じゃあ、お仕事行ってくるね」

「うん、今日は天気が良くてよかった。気をつけて行ってらっしゃい」

きっと彼はまた私に会えると思っている。でも、おそらく二度と会うことはないと私は知っている。そう思うと、不覚にも涙が溢れそうになった。

彼は気づいてもいないだろうが、彼の何ら悪意のない言葉にならない心がキラキラと輝いて見えた。彼は毎週帰る家がある。そう、彼は愛されているのだ。

そして、そんな彼の陰口を叩いてる人々はそんな愛情に溢れてる彼が羨ましいだけなのだと気づく。

私は、今日をもってここを去るけれど、、、本当に最低な職場だったけれど、最後の最後でお金では買えない最高の宝物を貰った。

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